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猟奇的ゆとり虚言癖

正直者の僕の日常の日記

日記

  家に帰ると、知らない箱が置いてあった。
  机がわりにしているダンボールの上にこじんまりと知らない箱が置いてある。
  ダンボールも箱だから、箱の上に箱が置いてあると言ってもいい。
  ただ、ダンボール箱は知っている。この部屋唯一の机にして、唯一の立方体。
  のはずが、立方体がもう一つ増えている。
  知らない箱だ。


猟奇的ゆとり虚言癖  第四話「箱」


  私はおもむろに箱を手に取った。
  手のひらに収まるくらいの大きさのそれは、表面は冷んやり冷たくザラザラともツルツルとも言えないなんとも微妙な質感をしていた。

  なにより開け口っぽいものが見当たらない。
  そして、箱の中が空洞になっているのかもわからない。
  空洞になっていなかった場合、この箱は箱と言えるのだろうか。
  私は机がわりのダンボール箱を開けて辞書を探した。
  このダンボールには潰れないように本がぎっしり詰まってる。
  その奥の方から国語辞典を取り出した。

 

 

【箱】
木や厚紙などを材料にして、物を入れておくために、各面を囲ったもの。 「弁当―」

 


  やはり箱には、物を入れるための空洞が絶対に必要だ。
  空洞がないと物を入れるそれの存在意義がなくなってしまう。
  つまり、箱たる能力を備えていないがために箱ではなくなってしまう。

  もしこの箱に空洞が存在しなければ、これは箱ではなく塊。
  何かの塊だ。

 

  しかし私はこれを持った時、塊ではなく箱という認識を強めた。

  それは、この箱の重さだ。
  質量に比べて明らかに軽い。
  どのくらい軽いかというと、たこ焼き一個ぶんくらいの重さしかない。
  どのたこ焼きかにもよるだろ、と思われるだろうから言うが、私のいつも食べてる銀だこのたこ焼き一個ぶんくらいの重さだ。

 

  他にもこの箱には気になる所がある。
表面の質感、これはコンクリートではないのか。
  しかしコンクリートだとしてこの重さと比例しない。
  なら中は絶対に空洞のはずだ。
  じゃあもうこれは箱でいいだろう。

 

  その時思った。


(なぜ、そこまで箱かどうかにこだわってるんだ)


  普通、部屋に見知らぬ箱があったら、侵入者を疑ったり、

開けようと破壊を試みたり、

もしくはもうどうでもよくなってほっとくなどが普通の反応な気がする。

 

  こんなにも箱かどうかが気になるってなんなんだ。

  そういえば、この部屋もこの箱と同じ立方体だ。


  箱の中に住んでいると言ってもいい。

 

  箱というものは自然界には存在しない。
  人為的に作られたものだ。
  そこに住んでいるせいか、自然な反応が出来なくなってきているのかもしれない。


  そうだ、部屋という箱の中にいるせいでおかしくなっているのかもしれない。

 

  もはや、この箱に囚われているのか、部屋という箱に囚われているのかわからない。

 

  そうだ、部屋を出れば良い。
  その時、まだこの箱が気になるのであれば、部屋ではなくこの箱に囚われていることを証明できるではないか。

 

  早速、箱を手に乗せ部屋を出た。

  ふと手に違和感を感じて視線を箱に向けた。


  箱から小人が出ていた。

  箱にはなんの穴もないのに、壁をすり抜けたかのように現れた。

  この奇妙な生物はなんなのか。
  小さい人間、いや、よく見るとそれは私だ。


  とても小さい私が、知らない箱から出現した。

  それだけではない。まじまじと私を観察すると小さい私も手のひらに知らない箱を乗せている。

 

  目を凝らして見ると、小さい私の手のひらに置いてある小さい知らない箱からも、さらに小さい私が乗っている。

 

  おそらく、さらに小さい私の手のひらにもさらに小さい知らない箱が乗っており、
さらにさらに小さい私も出現していて、
さらにさらに小さい箱がその手のひらに乗っている。

 

  瞬間的に背筋に悪寒が走った。

 

 

 

  私は空を見上げた。