猟奇的ゆとり虚言癖

よくお前ほど普通の人はいないと言われます。

リアル脱出ゲームでこの下らない世の中からの脱出に成功した

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AM4:36

目が覚めた。

バイトの時間が不安定なため、変な時間に目が覚めるのはいつものことだ。

私はシーフードヌードルにお湯を注ぎ、プリズンブレイク第二シーズンを見始める。

私の生活は、バイトと睡眠以外の時間はプリズンブレイクを見ることで消化されている。

これ程までにプリズンブレイクに侵食されている生活を送ると

プリズンをブレイクすることが日常であり、プリズンをブレイクしない事などありえない。

こうなってくるともう一刻も早く自分もプリズンをブレイクしたくなってくる。

そこで今日、バイト先の店長と一緒にリアル脱出ゲームに行くという至極真っ当な流れになった。

この二人は、バイトと店長という垣根を越えた関係にある。

時に二人っきりで遊び、色々あって同じアパートに住むという少し気持ちの悪い関係だ。

 

AM8:39

5時前から見始めたプリズンブレイクは第三シーズンに突入していた。

スマホを確認すると店長からLINEがきていることに気づく。 

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待ち合わせの時間を当日の39分前に決めるという計画性の無さは、プリズンブレイクの主人公マイケルにも見習ってほしい。

私はパソコンを閉じ、出発の準備に取り掛かった。

 

AM9:00

待ち合わせの時間だ。

店長の家の玄関前で待っているが、出てくる気配がない。

まぁもう少し待ってみよう。

 

AM9:05

出てこない。

リアル脱出ゲームは10時から始まる。

移動距離を考えると、そろそろ出発しないと危ない時間だ。

耐えきれずインターホンを押す。

 

出ない。

 

もう一度。

 

出ない。

 

ドアノブをひねると、ドアはあっさり開いた。

この誰でも出入り自由という警戒心の無さは、プリズンブレイクのフォックスリバー刑務所にも見習って欲しい。

 

見慣れた店長の部屋へと足を伸ばすと、彼は完全に寝ていた。

8時21分にLINEを打ってからの最速の二度寝をかましていたのだ。

残りの39分を出かける準備にではなく睡眠に使うとは

この男、リアル脱出ゲームに本気である。

 

AM9:16

ようやく車に乗り込み出発することになる。

私はスマホのナビアプリを起動させ目的地までの時間を確認した。

 

目的地まで残り41分

 

ギリギリだ。

私が、なぜあの時間で二度寝ができるのかという焦燥を店長にぶつけていた所、彼から衝撃発言が飛び出る。

 

「前売り券が売り切れてたから当日キャンセル狙いでいこう」

 

聞くと、店長が三週間前に買っておくと豪語していた前売り券を、当日二日前に買いに行ったところ、完全に売り切れていたらしい。

このブレない計画性の無さこそ彼の魅力であることは、もはや言うまでも無いだろう。

 

AM10:00

開始時間ギリギリにリアル脱出ゲームの会場についた。

そしてなんと当日券があったのだ。

この人は、計画性が無いのにも関わらず何故か成功させる実行力がある。

計画性の無さは、この実行力のせいで必然的に育たなかったのだと思うと哀切感に襲われた。

そして、私の他人任せな性格も彼によって構築されたのではと思うと、もはや涙無くしては語れない。

 

すでに会場には沢山の人々が5人~6人一組となり着席していた。

リアル脱出ゲームは基本6人チームで行う事を前提としている。

奇数で来た場合一人少ない5人チームとなる。

 

スタッフに案内され、誰もいないテーブルに通される。

6人1チームとなるので、あと4人足りない。

しかし我々が来たのは開始時間の10時ちょうどだ。

つまり今から来る奴は遅刻であり、計画性が無い奴である。

我々のチームはこの時点で計画性の無い奴の集まりとなる事が決定したのだ。

 

AM10:05

若いカップルが来た。

計画性の無い若いカップルが来た。

既に壇上ではシャーロック・ホームズの衣装を着た司会者が、ゲームの説明をしていた。

このカップルはその説明の前半部分を聞いていないことになる。

この時点でゲームに不利になることは言うまでも無い。

全く計画性のないカップルである。

それに我々も説明は聞いてない。二人でドゥフドゥフ喋り込んでいたからである。

そしてカップルが来るとドゥフドゥフ喋るのをやめて、私は説明聞いてたアピールをはじめた。

店長は尚も説明を聞くそぶりは見せずカップルをガン見していた。

 

司会者の説明が続く中、会場スタッフがこのテーブルに向かって来る。

嫌な予感がする。

それは、このテーブルにいる4人全員が感じていたに違いない。

そしてスタッフは申し訳なさそうに告げる。

 

「このチームは4名になりますが宜しいでしょうか?」

 

死刑宣告。私達はただそれを受け入れるしか無かった。

 計画性がない。

人数も少ない。

そして司会者の説明を、ほぼ聞いてないというバトル漫画にありがちな落ちこぼれ4人チーム。

我々がこの会場で主人公ポジションをゲットした瞬間であった。

 

AM10:10

「同じチームメンバーに挨拶をしましょう」

司会者がそう告げると一斉に

「「「よろしくお願いします」」」

と所々挨拶を交わしている。

我々も例に漏れず挨拶を交わす。

 

「お二人は付き合ってるんですか?」

 

店長が挨拶代わりとばかりに先制攻撃をかます。

 

「はい!そうなんです!」

 

カップルの女性が笑顔を向ける。

なかなかにコミュニケーション能力の高さを伺わせる返しだ。

これは楽しいひと時を過ごせるかもしれない。

そう思った矢先である。

 

「そうなんですか、僕たちもです」

 

この店長、ぶっ込みやがった。

 

向こうはカップル、こちらはむっさい男同士。

最初から嫉妬していたのだ。その気持ちは痛いほどわかる。

しかしそこに勝機はあるのか。

というか正気なのか。

私は店長の顔を見やるとウインクで返して来た。

 

勝つ気である。

 

AM10:15

コナン君たちのオープニングムービーが始まる。

コナンくんは巧みに16進法を使い謎を解いていく。

16進法を、早く進む為の歩行法だと思っている私にとっては何をしているのかさっぱりだった。

ストーリーは進み、我々はこの会場に隔離される。ここから脱出できなければ待っているのは死だ。さぁ謎に取り掛かろう。

 

テーブルの上にある封筒の中には、例に漏れず謎が用意されており、チームで協力しなければ脱出は不可能。

それも本来6人用なので4人の時点でかなりキツイ。

さらに先ほどのゲイカップル発言によりかなり気まずい空気となっている。

これは詰んだのではないか。

この状況を察したのか、店長が若いカップルに声をかける。

 

「アンタたちはこっち、アタシたちはこっちの謎を解くから早くしなさい!」

 

急なキャラ付けである。

さっきまでそんな喋り方じゃなかっただろとは言わせない迫力がそこにはあった。

店長の暴走のせいでチームは混乱の渦ではあったが、何とか最初の謎が解けた。

すぐさま第2の謎に取り掛かるが、周りを見渡すと明らかに我がチームは遅れていた。

 

「ん~、そうねぇ~壁のヒントが気になるわぁ」

 

原因はこいつである。

このオネェキャラが気に入ったらしく少し板に付いてきてる。

とても癇に障る。

 

「あっ、アソコにあるわ!!ちょっとアンタ、アタシと来なさい!」

 

店長、もといオネェが壇上近くにあるヒントを見にカップルの青年を連れて行ってしまった。

残されたのは、完全に引いている少女。

そして、オネェに犯されたノンケという設定を貫き無言を通す私だ。

流れる沈黙。

空気に耐えきれず、私は口走った。口走ってしまった。

 

「私は、ノーマルですよ」

 

「...あ、はい」

 

あんなに輝いていた彼女の笑顔は、今は見る影もない。

完全に引かれている。

オネェと青年が戻ってきてからもこの縮図は変わらず、どんどん板に付くオネェと完全に引いている少女。

そして、我関せずを貫く青年。

立ち位置が皆無の私。

混沌。それがこの場を現わす唯一の言葉だ。

 

AM11:02

無法地帯が続く中、一応真剣に謎を解く三人。

それに対して私は、自分を見つめ直していた。

思えば、小学生の頃からそうだった。人の顔色を伺い、自分の立ち位置ばかり気にして安心を得ようと必死だった。冒険はせず、火傷を負うようなフリにはいつも逃げ切って、つまらない奴というレッテルを貼られる事を極端に恐れた。

だから人気者になれないのだ。

人気者にはスベっている奴と一緒にスベれる度胸と愛情がないとダメなんだ。

私は殻を破る。

齢28にして、あまりに遅い孵化が始まった。

 

「もう、全然わからないわ!ワタシ全然わからない!」

 

私の急なキャラ変。

さっきまでそんな喋り方じゃなかっただろうとは言わせない。

カップルはこちらを凝視しているが、そんなもの私には通じない。自分というプリズンをブレイクした私にとって痛々しい空気など微塵も感じない。

私には仲間がいる。

店長を見るとキラキラした目で語りかけてくる。

 

こ ち ら の 世 界 へ よ う こ そ

 

それからというもの、ますます調子にのるオネェ二体に、もはやゲームの謎より、目の前の物体たちが謎といった面持ちのカップル。

場は荒れに荒れ、私たちは完全に周りから取り残されていた。

 

AM11:20

終了の合図であるコナンくんのムービーが始まった。

カップルには明らかに疲労の色が見え、その原因と思われる我々二体は、やりきった達成感と満足感でいっぱいだった。

もちろん脱出には、失敗した。

脱出に成功したのは、20組中1組。

司会者は、失敗した皆さんは死にましたーと笑いを誘う。

コナンくんたちは、死んだ我々など頭に無いかのように話を進める。

敗者は悔しがり、唯一の勝者である1チームに賛辞を送った。

こうしてリアル脱出ゲームは幕を閉じた。

我々はこのゲームの脱出に失敗した。

しかし、この下らない世界からの脱出に成功し、新たな世界の扉を開けた。

もうなにも恐れることはない。

 

オネェに敵はいないのだから。